焼きソバを慣れた手つきで作りだした一臣君に武君が溜め息を吐く。
「先輩の時はそうでも無かったのに、何で今回こんな鈍いんだよ」
「先輩って…?」
「ん?先輩ってのは一臣の好きな先輩」
「……え」
それって、勉強してた時に言ってた憧れの…って武君の言い方じゃ違う感じがする。
だから武君に聞いてみると、武君は『しまった』と言う表情を浮かべてから、慌てて笑った。
「一臣が弓道始めたの、うちの部長に憧れたからなんだ」
明らかに話を逸らされてる気がする。
だって武君、
「俺達が中三の時にたまたま見た大会で、部長が弓を構えてて、空気とか姿勢とかがめちゃくちゃ綺麗で格好良くて」
聞いてないのに教えてくれる。
「それで、弓道部入って」
「…武君」
「な、何?香澄ちゃん」
「一臣君、好きな人いるの…?」
「………」
笑顔のまま固まった武君の答えは、明らかにイエスだった。