「い、行ってきます!」


これ以上からかわれないように早めに家を出る事にした。

浴衣だから走りにくいけど、走れるギリギリラインでパタパタと走った。

すると、


「いってらっしゃい」


クスクスと笑いながら、お姉ちゃんが送り出してくれた。

玄関を出て、駅の方向に向かって歩いて行く。

お姉ちゃんがさっき言った事が恥ずかしくて、あたしは一人頬を赤くしてしまう。


『男は浴衣見ると襲うイキモノなんだよ』


ー…そんな訳ない。

そんな事になってたらお祭りどころじゃないもん。

慣れない下駄のカラコロと言う音を聞きながら、暫く歩いていると、


「香澄」

「……!」


一臣君が向こう側の道路から歩いて来た。


(今日も…格好イイ)


ほぅっ、と溜め息を吐きそうになっていると、あたしの目の前で立ち止まった一臣君があたしをジーッと見下ろした。


「……こんばんは」


照れちゃいながら挨拶すると、


「可愛いな…」


ボソリと呟かれた言葉。


「……え?」


今なんて言ってくれたのか、つい聞き返してしまうと、


「じゃあ、行くか」


一臣君はもう一度言ってはくれなかった。

けれど、


(あたしの聞き間違いじゃなかったら…)


「………っ」


嬉しい事を言ってくれたよね。