「今から『先生』禁止だからな」

「えっ……じゃあなんて呼ぶの? あ、『矢野』でいい?」

「……普通下の名前だろ」

「無理だよっ!」

「ちょっとは考えろよ。ハルキでもハルくんでも……」

「無理っ!! 気持ち悪いっ」

「おまえなー……」


ハルキだとかハルくんだとか……絶対無理だし。


名前を呼んでもいないのに、すっかり赤くなった頬を両手で隠す。

先生はそんなあたしに呆れたような笑みを零した。


「まぁ、いっか。矢野で。……市川はなんて呼んで欲しい?」


先生が意地悪な聞き方をしたせいで、答えにくい雰囲気が場を仕切る。


「別に……いつも通りでいいよ」

「は?」

「『市川』でいいよ」


あたしの答えに、先生は不機嫌そうに顔をしかめた。