春夏秋冬
「あ、」
「ん？」
「もう桜が蕾をつけてる」
「あ、ほんとだ」
彼女の指差す先には、遠慮がちに色づいた小さな蕾があった。
いくら体をすり抜ける風が冷たくても、もう春先なのだ。
と、いうことは僕が君を好きになってもう２年経つということになる。
「ねえ佐藤くん」
「なに、南さん」
「お花見行きたいね」
「え、うん、 僕と？」
「うん、君と」
それは、デートの誘いと受けていいのだろうか。
まさかの展開に思わず動揺して、目が泳いだ。
そんな僕に気づいたのか気づかないのは分からないが、彼女は微笑んで桜の木に駆け寄って、そしてそれに抱きついた。
彼女のこのような行動にはこれまで幾度と無く驚かされてきた。だが、今日この瞬間ほど桜の木になりたいと思ったことはない。
僕も桜の木の下で立ち止まり、そして彼女の背中を見つめた。
「早く咲きますように！」
「 何それ、おまじない？」
「うん！早くお花見したいじゃない！」
それは満開の桜を見たいからなのか、それとも僕との時間が待ち遠しいのか。
その言葉に含まれる意味合いはわからない。
けれども、恋とは厄介なもので。
自分でも驚くくらい前向きになり、そして期待を膨らませる。
ありえないと思う反面、後者を選択してしまうのだ。
「本当に、早く咲けばいいね、桜」
「うん！」
桜の花が咲く頃までには。
この思い、君に届けるとこが出来ればいいのだが。
