真っ黒の腰まである髪。
前髪は長く右目の上あたりで分けてある。
睫毛は上も下も付けているのだろうが全く気にならない。
大きな目もぷっくりした唇も‥‥
美しく綺麗で可憐で可愛く素敵だ。
これだけの言葉を出してもまだ足りない。
『‥あ‥‥あぁ‥』
声が出ない。
僕は彼女に地べたを這って近付いて行く。
『‥なにこいつ。』
彼女僕を冷ややかな目で見下している。
そ の 瞳 を 独 占 し た い
そして彼女が一言。
『気持ち悪い。
桜、帰ろ。』
『‥待っ‥‥て‥‥』
僕は必死で彼女を呼び止める。
だがあの女が再び僕を殴った。
『‥るせぇんだよ!
まじで、本気で殺すぞ!』
『‥桜。
ほんとに帰るよ。』
彼女は僕に背中を向けて歩き出した。
ふと左手を見ると薬指に指輪があった。
‥結婚‥してるのか?
『ねぇ、せな。
今日泊めて〜!』
『ペルツいるよ?
それでもいいなら泊まりな。』
『ペルツ好き〜♪』
せ‥‥な‥?
名前か?
この子指輪してるから既婚者なんだろうな。
なんだ‥
"あの女"と一緒か。
あれから時間も経ち雪梛の家には正之も含め四人で酒を飲んでいた。
『へー‥そんなことがあったのか。
雪梛も災難だったな。
桜も居るししばらくは安心だな。
でも女二人は危ないから、酷くなるようなら何か考えよう。』
詳しい話しを聞いた正之が言う。
正之はもちろん雪梛も心配だが自分の彼女である桜が心配なのだろう。
車の為一人だけコーヒーを飲みながら険しい顔をした。
『琉輝星、お前も一応何かあった時のために準備しておけ。』
『何かって‥なんだよ』
『もし酷くなったら雪梛を琉輝星の家に泊まらせた方がもっと安心だろ。
お前も一人暮らしだし。
だけど昼間は一人になるし、お前が帰って来るまでも一人だ。
お前が雪梛の家に泊まって桜も泊まる、ってのが一番安心だけどな‥
‥‥酷くならないのが一番いいんだが‥。』
正之の言葉に三人は黙り込んだ。
その"もしもの時"が来る確率がとても高いからだ。
『‥でもさ!正之って警察じゃん?
なんかあったら心強いしさ!
るきっちもいるし!せなもちょっとは安心じゃない?』
桜はあえてふざけた時の琉輝星の呼び方をした。
確かに正之は警察だ。
琉輝星もいるし心強い。
だが雪梛は知っていた。
『俺が警察なのは確かだ。
だが俺は知り合いがストーカー被害にあっているからといって人を動かせる程"上の人間"ではない。』
今、正之が言った事を。
何も話さなかった雪梛がやっと口を開く。
『あたし‥さ‥‥‥
あのストーカーに‥‥‥
殺され‥るの‥‥‥?』
私はこの前ストーカー被害にあって殺された女の人の特集をニュースで見た。
それと同じように私は殺されるの?
なんで‥なんで私なの?
『‥大丈夫だって!
雪梛は俺が守ってやっから。』
琉輝星は雪梛を励ますように言った。
その時‥―
雪梛の携帯から非通知を告げる音楽がなる。
雪梛の携帯は非通知着信や個別で着信を変えたり出来る。
雪梛は非通知からの電話は受けないようにしていたので着信音を変えていた。
携帯からは雪梛の好きな浜崎あゆみの曲がけたたましく鳴っている。
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥。』
誰一人として雪梛に出たら?等言わない。
いや、言えない。
『もしもし。』
電話をとったのは正之だった。
『‥誰だ‥お前はぁああぁぁぁあぁあああ!
せぇなぁあぁ!
せなを出せぇえぇえぇぇえ!!!!』
耳元で大声を出されたにもかかわらず、正之は冷静に‥‥いや、普通に受話音量を下げた。
『私は警察の者です。
携帯の持ち主の方が被害届けを出されました。
あなたは誰ですか?』
『警察だとぉ?
はははははははは!
笑わせるな!
あの女の時は死ぬまでほってたくせによぉ!
くくく‥雪梛は俺の物だ!
あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは‥―』
―‥プツッ ツー ツー ツー ツー
‥‥‥"あの女"?
誰の事だ?
『‥之!‥‥‥正之!!』
桜の声で正之は我に帰る。
『とりあえず、非通知拒否しとけ。
まあそれで電話こないだろ。』
"あの女"
それがひっかかる。
まあ‥正直、俺が警察になる前からよくある話しだった。
ストーカーにあっている女性が被害届を出しても警察は動かずストーカーに殺される。
最近こそ減ったがよく問題になっていた。
その事を言っているのか、もしくは‥‥
自分の"殺した女"の話しを出したのか。
『‥ねえ、正之
その‥電話でなんて言われたの?』
雪梛は怖がり震えながら正之に聞いた。
『怒鳴り付けられたよ。
だけど警察って言ったし被害届も‥―』
―‥待てよ‥‥
相手は警察も恐れていない。
むしろ馬鹿にしているし、何もしないと思っている。
まずかったか?
いや、だけどまずは雪梛を安心させないと‥。
『―‥被害届も出されてるって言ったよ。
とりあえず今日は俺達三人が泊まるから。』
『ねぇ、私服とか取りに帰りたい。
だって今日から泊まるし明日取りに行くとしても‥
せなと二人も危ないし一人にさせとくのも嫌だし。
正之達が居る間に行っておきたい!』
桜は少し安心した顔で正之に言う。
『‥じゃあ取りに行くか。
琉輝星、少し頼むぞ。』
そう行って二人は桜の家に向かった。