僕 の 愛 し い 人 [ホラー]

先輩は驚いた顔をした。

一瞬悲しい顔になっていた。

『桜!!!』

病室の扉がいきなり開き琉輝星が汗だくで入って来た。

『‥琉輝星
‥‥っ‥ごめ‥‥
ごめんね‥
あたしが‥買い物行こうなんて‥言わなかったら‥‥‥‥』

『お前は悪くねぇよ‥
それより雪梛は?!』

琉輝星の言葉に俺達は黙る。

『おい‥!』

『桜のお父さん‥
いや、羽川 実さん。
羽川 桜さん。
山口 琉輝星さん。
あちらでお話があります。』

今から話すことは友達としてじゃない。

警察としてきっちりと話そう。

俺達は桜の病室を出て、病院側に手配してもらった部屋へと入る。

『正之君‥!』

部屋に入ると雪梛の両親も待っていた。

『桜ちゃんも‥ごめんね‥
ごめんなさいね‥!
痛かったでしょ?ごめんね‥‥』

雪梛の母親は桜を抱きしめながら謝罪を繰り返す。

『羽川さん‥。
申し訳ありませんでした。』

父親は桜の父親に深々と頭を下げ続ける。

『いえ‥うちの娘が買い物に誘ったということもありますから。
早く雪梛ちゃんを見つけてあげましょう。』
『それでは‥
色々とお話することがあります。

まず、雪梛さんの居る場所が特定されました。
桜さんの見たナンバーの車を見つかったので。
今、我々警察は突入の準備しています。
準備出来しだい、突入します。』

『せなの場所がわかったの‥?!
どこに居るの?!』

『斎藤 忠史‥
この名前に心当たりありませんか?』

雪梛の両親と琉輝星は顔を見合わせ首をかしげる。

一方、桜と桜の父親は顔を青ざめ目を見開く。

桜の父親が小さく口を開いた。

『‥まさか‥‥‥百合子の‥‥』

『‥そのまさかです。
羽川 百合子さんを殺害した犯人です。

少し前に出所しまして‥
桜さんの言っていた車があった場所は‥‥‥

斎藤 忠史の自宅アパートの前です。』
殺される訳でもなく
殴られる訳でもなく
犯される訳でもない日が何日も続いた。

無理してタバコを吸い
特に飲みたくない物を飲み
特に食べたくない物を食べ
男をコンビニに行かせる。

『‥ねぇ、タバコ。』

『すぐ行くよ!
待っててね!』

こう言うだけで男は喜んで買い物に行く。

私に何もしてこない。

『‥帰りたい‥‥‥‥‥』


―ガタッ!


『なんでお前がここに‥!』

『‥早く殺せよ‥‥‥‥』

何?

誰と話してるの?

扉の向こうからあの男と女の声がする。

『その部屋に入るな!
そこには雪梛が‥!』

『うるさい!!!!!!!!』

‥‥‥‥この声‥‥まさか‥

―ガチャ‥

男が閉めた扉が開く。
雪梛が攫われて3日が経った。

『琉輝星‥
ごめんね‥‥ごめん‥‥』

仕切に謝る桜。

『お前は悪くないから‥。な?』

何度も何度も俺は桜を慰める。

桜は悪くない。

悪いのは‥‥‥‥。

『桜‥少し涼んでくるから‥‥。
待ってるんだぞ。』

俺は病室から出て病院の庭を目指す。

ベンチに腰掛け煙草をくわえる。

『‥お前‥‥‥
タバコやめるんじゃなかったか?』

ふいに後ろから話しかけられる。

正之だと分かっているが今は誰とも話したくない。

『‥一人にしてくれ。』

『そうもいかねぇんだよ。』

『‥‥‥‥なんだよ』

煙草に火をつけ口から煙りを吐く。

『‥なあ、琉輝星。
星愛ちゃんは?』

『は?
‥学校に行かせたよ。
補習がどうの言ってた。』

『そうか‥‥‥
琉輝星‥実はな‥‥―』
―コン コン

『桜ちゃーん?
俺やけど〜』

病室にノックの音が響いた後、すぐに誰か分かる関西弁が聞こえた。

『‥どうぞ。』

『入れてもらわれへん思ったわ〜』

ヘラヘラしながら入ってくる景一さん。

『‥‥‥この間は‥すみませんでした‥‥‥。』

『いやいや!
俺らが悪いからしゃーないわ!

今日来たんな〜話しあるねん。』

顔は笑っているが目が笑っていない。

『‥‥‥なんですか?』

『今から話すことは全部ほんまやから。

新しい事が一つ分かってん。
桜ちゃん‥あんた俺らに隠し事してるやろ?

今回の事件の犯人はもう一人おるのが分かった。』

『‥‥‥。』

『誰か分かるやろ?

もう一人は‥‥―』
扉が開いた瞬間、私は目を疑った。

『‥‥なんで‥‥あなたがここに‥?!
‥‥なんで‥』

『あんたが憎いんだよねー‥‥‥
琉輝星を‥‥あたしから‥とったから‥‥!』

『‥何言ってるの?
だって‥あなた達‥‥―



















兄妹じゃない!!!!!!!!!!』






『‥そんな‥‥‥‥‥』

正之は信じられない言葉を並べる。

『‥もう一度言う‥‥‥。
主犯と思われる男は桜の母親を殺した男。
共犯は‥星愛ちゃんだ。』

毛穴という毛穴が開き汗が出る。

俺の大切な愛しい人を攫ったのは実の妹と桜の母親を殺した男。

『どこに居るかも分かった。
準備も整った。
斎藤 忠史の逮捕令状と‥‥‥
山口 星愛の逮捕令状も揃った。
これから雪梛を助けに向かう。』




頭が真っ白だ。





『―‥犯人のもう一人は、山口 星愛や。』

私は頭を抱えた。

昔‥星愛から言われた事があった。

"せーあね‥お兄ちゃんが好きなの。
だってね?
パパもママも死んで小さいせーあを今も昔も‥ずぅっと守ってくれたんだもん。
初恋も全部‥‥お兄ちゃんだもん。"

あの時、星愛はまだ小学生だった。

兄妹ではよくある風景だと思った‥‥。

よく遊ぶグループにいた琉輝星。

仲良くなるのに時間はかからなかった。

ムードメーカーでうるさくて明るい琉輝星の後ろにいつも隠れている妹‥星愛。

皆で可愛がってどこに行くのも一緒だった。

せな達が付き合い初めてからも、琉輝星に着いて行こうとする星愛を止めたのも私だ。

"デートにがきんちょ連れていく訳無いでしょ!
家で大人しくしてなよ。"

"‥じゃあ‥‥桜ちゃん遊んでよ‥‥"

"私も今からデートなの!!
あんたさー‥琉輝星ももう大人だよ?!

今までずっとあんたの面倒見てきたんだから!
あいつが本気で恋してるのぐらい応援出来ないの?!
あんたのワガママばっかり聞いて自分のしたい事は二の次にして‥‥

いい加減‥自立しなよ。"
今思えばキツイ言い方をした‥。

だけどお兄ちゃん子で何をするにもお兄ちゃんお兄ちゃん‥‥。

琉輝星も

"いい加減、一人でなんでも出来る様になってほしいよ。

あいつだんだん大人になって行く訳だし‥‥。
いつまでも俺が面倒見れる訳がないんだから。"

と酒を飲むといつも本音が出ていた。

だからあの時は‥これでいいと思った。

キツイ言い方でも星愛の為だと思ったから‥‥。

『‥星愛は琉輝星の事が‥‥好き‥なんですか?』

『きっと‥狂おしい程に。』

私は頭を抱えながら泣いた。

気づいていたから。

まさかと思っていたから何も‥誰にも言わなかった。

雪梛が誘拐された時、まだ少しだけ意識があった。