『ん‥あー‥』
大きな欠伸をしながらベッドから降りる。
携帯を開くと着信が1件もない。
こんなに清々しい朝は何日ぶりだろう?
昨日までは携帯を開くと何件も着信があり、着信履歴は非通知ばかり。
友達からの電話を気付かなかったらメールかもう一度電話がこない限り電話が来たこと自体分からない。
そんな日が何日も続き頭がおかしくなりかけた。
パンクしかけていた頭もスッキリしている。
琉輝星、桜、正之、美月、美月の彼氏に感謝しなくちゃ。
『せーな♪
おはよう!』
『おはよう、桜。
おじさんは?』
『仕事行ったよ。』
そう、と答えた後に他愛もない話しをする。
少しでも‥ストーカーからの電話や手紙がなくなれば‥‥‥
私がそんなことを考えている時、桜の携帯が鳴った。
『誰だろ?
あ、星愛じゃん。』
星愛ちゃん?
桜に電話なんて珍しいな。
『もしもし?』
「おはよー!」
受話音量がでかいのか、星愛ちゃんの声が聞こえる。
『おはよう。
どうしたの?』
「せなち番号変えたんだ?
教えてもらってないから教えてほしいな〜って思って♪」
教えられないんだよね‥
桜は私の方を見て首をかしげてくる。
私は苦笑いをしながら首を横にふる。
『あぁ、せなさー、携帯水没しちゃって!
携帯しばらくなしなんだって〜。』
「そうなんだ‥
わかったぁ。
またかけるね〜♪」
桜は携帯を閉じてテーブルに置いた。
『悪い事しちゃったなー‥』
私は申し訳なさでうなだれる。
『せなは悪くないよ。
仕方ないんだからさ‥。
解決してからちゃんと話せばいいじゃん!』
『そうだよね‥。』
口ではこんなことを言いながら心の中では"私は悪くない"と思ってしまう。
このまま何も起きてほしくない。
もう怖い思いをするのは勘弁したい。
『せな‥大丈夫?』
『え‥あ、大丈夫だよ。』
ほんとは大丈夫じゃないんだけどね。
あれから何もない日が10日続いた。
少し安心してきている。
平和ボケ‥ともとれる。
『せな〜。
明日の講義なんだっけ?
てか今度の日曜さ、久々に4人でどっか行こうよ♪』
普通の会話をしながら買い物をするのがこんなに幸せなんて‥
そろそろ星愛ちゃんにも連絡しなきゃ。
『桜、おじさん心配するしそろそろ帰ろ。』
『え?!
もうそんな時間?!
早く帰ってご飯の準備しなきゃ!』
桜は鏡に合わしていた服を元の場所に戻し私の手を引いて走り出した。
『ちょっと桜!
走るの?!』
『そーだよー!』
私たちはケラケラ笑いながら二人で大きな道を走る。
高校の時もこうやって走ったな‥
『今日の晩ご飯何がいっかなー?』
疲れても走るのをやめない私たちは周りから見たら変な人なんだろうな。
それを想像してまた笑いが止まらなくなる。
ふと後ろを見ると私たちと同じスピードで軽がついて来る。
邪魔なのかな?
『桜!
私たち邪魔みたい』
それだけ告げると桜は走っていたスピードを落とし道の端にずれる。
軽を目で追いかけていると私たちの横で止まった。
何‥?
ーガチャ
『いや‥っ!』
何が起きているか分からない。
車から降りた男に桜が鉄パイプで殴られている。
『やめて!!!!!』
状況をやっと掴み私は男に飛び掛かった。
ーゴッ ガン ゴキ
男は鉄パイプを振り上げ桜を何度も殴る。
桜の頭から血がじわじわと出ている。
くるっと私の方を見て男は口を開いた。
『やっと二人だ。』
ぞわっと背筋に寒気が走った。
鳥肌が立ち頭の中に警報が鳴り響く。
桜を置いていけない。
どうしたら‥‥‥
『少し眠っててね。』
気持ちが悪い笑みを浮かべながら男は鉄パイプを振り翳した。
-ゴキッ!
鈍い音が聞こえた瞬間、頭に激痛が走った。
死ぬのかな?
死にたくないな‥
そんなことを考えながら、私は意識を手放した。
『う‥っ』
ズキズキと痛む頭を抱えながら私は起き上がった。
そういえば殴られたな‥。
桜は無事かな?
殴られた所には包帯が巻かれていた。
『‥‥‥‥ここはどこ?』
女の子が好きそうな部屋。
女の子と言っても子供の女の子が好きそうな部屋。
ピンクの花柄の壁紙
白い生地にレースの着いたベッド
茶い木の机
薄いピンクのスタンドライト
熊やウサギの大きなぬいぐるみ‥
子供部屋の様な物ばかり。
そして私の服は何故か真っ白なワンピース。
『‥なんで?』
ガチャリと冷たい音が部屋に響く。
私は反射的にドアを睨む。
『あぁ雪梛。
目が覚めたかい?』
この男は‥‥‥‥
『あんた桜を殴った糞野郎ね。』
私は横目で睨みながら話す。
『ここはどこ?
着替えさせたのあんた?』
『あぁ!その服気に入ったかい?
こんなのもあるよ?』
ピンクのフリフリな服を出す男。
『そんなのいいから、さっさとここから出して。』
『それは無理だよ。』
その言葉に苛立つ私。
『タバコ。』
私は足を組み手を差し延べる。
『え‥雪梛タバコ吸ってた?!』
『前吸ってたんだよ!!!!!!
セブンスターのBOX!!!!!
ないならさっさと買いに行けよ!!!!!!!クズ野郎!!!!!!!』
『ごめんね!雪梛‥
すぐに買いに行くから‥待ってて!
あとライターも!』
それだけ言って男はさっさと部屋を出て行った。
男が出ていくとガチャッと鍵を閉める音がした。
その瞬間ガタガタと体が震え出す。
本当はタバコなんて吸った事がない。
本当はあんな事を言って怖かった。
だけど怯えたら付け込まれて何をされるか分からない‥。
『‥‥琉輝星ぁ‥
怖いよ‥助けて‥‥‥』
涙が溢れ出す。
泣いちゃダメだ‥‥。
あの男が何をしてくるか分からない‥。
強いフリをしてなくちゃ。
桜‥大丈夫かな‥?
ごめんね、桜‥‥
私のせいで殴られちゃったね‥
ごめんね‥痛かったよね‥‥ごめんね‥
涙が止まらない。
私はいつまでこの部屋で生活しないといけないの?
あいつに殺されるの?
正之‥‥景一さん‥‥探してくれてるかな?
助けて‥‥
もう‥怖くておかしくなりそうだよ‥‥