僕 の 愛 し い 人 [ホラー]

『なんなのよ!
早く"あの女"を犯すなり殺すなりしてよ!!』

僕の目の前に居る女が怒鳴りちらしている。

『僕は君の為に雪梛をあの男から守るわけじゃない。』

『何言ってんの?
さっさとあの女殺してあんたの"物"にしたらいいじゃない。』

『君こそ何を言ってるんだ。
殺すのは雪梛じゃない。
あの男を殺すんだよ。』


―ガシャン!


僕が雪梛の写真を見ながら女に話していると後ろの壁に何かがぶつかった。


『ふざけんな。
殺すのは女だよ。
お前に"情報"も色々やったし、お前の望んだ事もしただろう。
"あの人"を殺してみろ。


お前も殺してやるからな。』

『‥‥‥っ、わかったよ。』

初めて僕が恐怖を覚えた。

この女‥

僕以上に狂ってるな。

狂気は武器だ。

こいつはきっと‥

僕以上に恐ろしい奴だよ。

『また来るから。

次、来るまでに"あれ"する場所考えといてね。

うふふ‥
あの女‥本当は殺すつもりだったのに。
あんたがあの女に惚れて逆に都合よかったわ。

じゃあね』

女はニヤリと笑いながら玄関の扉を閉めた。

家の場所を教えたのは間違いだったな。

何度も何度も来るし。

残念だな。

お前の思い通りにはさせないよ。
‥―カツ カツ カツ カツ‥

私のヒールの音が夜の道に響く。

あの女、さっさと死ねばいいのに。

そうしたら私が1番になっていたのに‥!

携帯を開き待受画面を見る。

『ねぇ?琉輝星‥。
どうしてあの女なの?
なんで私じゃないの?』

貴方は遠い存在‥。

ずっとずっと‥

貴方を"琉輝星"と呼びたかった。

呼びたいのに。

貴方は遠すぎる。

いつになったら私だけ見てくれるの?

こんなにも貴方を愛してるのに。
―ピンポーン

『雪梛〜
美月だけど。』

インターホンが鳴り玄関から美月の声が聞こえた。

『開いてるよ〜』

私が大きな声で言うと玄関が開き美月と美月の彼氏が入って来た。

『おじゃましまーす。』

『お〜琉輝星。
久々じゃん。』

二人の挨拶を聞いた後に私も挨拶変わりに言う。

『ごめんね。
いきなり呼び出して。』

『いいよーん♪
要らない服って何よ?
スウェットでもよかったの?』

美月は自分の着ているスウェットを引っ張りながらこちらを見る。

『スウェットで上等〜♪
てかそれでよかったよ。』

桜がニコニコしながら美月に答える。

『ならいいけど。
で‥要らない服着てこさして何すんの?
ガーデニングの手伝いなら、うちのママのだけで十分だからね。』

美月はふざけながら聞いた。
『安心して。
ガーデニングではないから。』

桜は笑いながら美月に言った後、説明を始めた。

『美月は別に何もしなくていいの。
ただ、その服をせなに着さして。
その後2時間か3時間ぐらいしたら帰って。
せなにも要らない服用意してもらっといたから。』

『‥なんのために?』

『せなをここから逃がす為に。』

その言葉に全員が黙る。

『二人とも‥頼む。』

琉輝星が頭を下げる。

‥私の為に‥‥‥。

『ちょっ‥琉輝星!
頭上げろよ!』

『そうだよ!琉輝星!
それくらいするからさ!』

二人は頭を下げる琉輝星を宥める。

『雪梛の為だもん♪
私が出来ること何でもするよ。』

『‥ありがとう。』

その言葉に私は本当に心から感謝した。
『ねぇ桜。
正之さんは?』

『正之は先輩の車借りに行ってるよ。
正之の車も琉輝星の車もバレてるかもしれないからね。』

美月は納得したように頷く。

『じゃあ雪梛。
着替えますか。』

美月は立ち上がり脱衣所まで歩いて行く。

『そうだね‥。』

私も返事をして脱衣所に向かう。

『雪梛‥ちょっと痩せた?』

脱衣所で服を脱いだ私を見て美月は聞いてきた。

『え‥どうだろ?
よく分かんないや。』

痩せたとしても1、2kgぐらいなのに。

『私、そんなに痩せた?』

『うん。
ちゃんと食べてる?』

『‥‥‥‥』

正直そんなに食べてない。

だって‥強がっていても本当は怖い。
『まあ、心配しなさんな!
琉輝星君も桜も居るしさ。
もちろん私も居るよ。
何かあったら私達が力になってあげるから。』

『‥美月。
ありがとう。』

涙が出そうになる。

どうして皆こんなに優しいんだろう?

『そのかわり!
ストーカー問題解決したら飲みに行こうね。
雪梛のおごりで♪』

美月の言葉に私は思わず吹き出す。

『やっと笑った〜!
それじゃ、さっさと着替えよ。』

二人の服を交換する。

これで私はバレずに逃げられるのかな?

『あ、雪梛ごめん。
脇汗やばい。
服すごい濡れてる。
脇の所だけ。』

‥‥‥‥‥緊張感ないなー‥
雪梛‥

カメラとか取り外したから君が全然見えないよ‥。

寂しすぎて君の家の前まで来てしまったよ?

今日こそ君は家に上げてくれるかな?

恥ずかしがってばかりじゃ、どうにもならないのに。

全く‥可愛いなあ。

ふふふ‥‥‥




僕の雪梛‥‥‥。





離したくない。




あ‥‥

さっき雪梛の家に入った女の子が帰っていく。

ふふ‥‥

"あの桜ちゃん"も一緒だ。

‥‥琉輝星‥か。

どこがいいんだか。

しかし‥‥

"あの桜ちゃん"は皆の前では猫を被っているんだな。

僕の前ではあんなに‥ふふふ。

どうして桜は正之とか言う奴と付き合っているんだ?

‥あいつは確か‥‥‥‥

ん?車‥‥

誰の車だ?

‥まぁいいさ。

雪梛は‥

僕の雪梛はあの部屋に居るんだから。

桜もあの野郎も知らない雪梛の女友達も‥

関係ない。

早く帰れよ。