『せな髪の毛ロングなのになんでウィッグ持ってんの?
しかも茶色とか染めてるの多いし。
染めたらいいじゃん。』
桜はウィッグを漁りながら言った。
『黒のロングは琉輝星のタイプだし‥。
だから今染めてないの。
でも別の髪型も見たいって言ったから‥‥‥。』
『琉輝星まじわがままじゃん!』
大笑いしながら桜は琉輝星を指差す。
『うるせぇな!』
『てかそれに答えるせなも健気!』
それを聞いて私は笑いながら反論した。
『桜だって正之に髪の毛暗い色がいいって言われて「私は正之のタイプに合わせないから」とか言ったくせに‥
ちゃっかり服装とか正之のタイプに合わせてるじゃんか!』
桜は顔が一気に赤くなる。
ツンデレだなぁ。
『とりあえず!
今日、正之6時には帰ってくるから!
帰ってきたら用意するよ!』
ぷいっと口をとがらせながらそっぽを向く桜。
『ほんと可愛いなあ。』
私は桜の頭を撫でながら笑った。
『ていうか変装ってどうすんの?
この家から出るの確実に私か桜しかいないじゃん。』
『美月に頼もうよ。
せなが美月のふりしたらいいんじゃない?』
桜は喋りながら携帯をカチカチと押した。
『あ‥美月?
ちょっと頼み事あるんだけど‥
うん‥うん‥
ほんと?
じゃあ要らない服着て来てよ。
うん、そう。
はいはーい、じゃあね〜』
携帯で誰かに電話した後、桜は私の方を見てニコッと笑った。
『たぶんOKっぽいよ』
『‥上手くいくかな?』
少しずつ不安になって来た‥。
『大丈夫。
俺らが雪梛守るから。
絶対に大丈夫だよ。』
琉輝星は私の頭を撫でながら優しく言った。
‥大丈夫だよね。
きっと大丈夫。
警察に被害届も出そう。
実家に電話して引っ越そう。
大学に行くときもコンビニにも一人で行くのは避けるし‥。
あんな奴なんかに‥‥
殺されてたまるか。
『なんなのよ!
早く"あの女"を犯すなり殺すなりしてよ!!』
僕の目の前に居る女が怒鳴りちらしている。
『僕は君の為に雪梛をあの男から守るわけじゃない。』
『何言ってんの?
さっさとあの女殺してあんたの"物"にしたらいいじゃない。』
『君こそ何を言ってるんだ。
殺すのは雪梛じゃない。
あの男を殺すんだよ。』
―ガシャン!
僕が雪梛の写真を見ながら女に話していると後ろの壁に何かがぶつかった。
『ふざけんな。
殺すのは女だよ。
お前に"情報"も色々やったし、お前の望んだ事もしただろう。
"あの人"を殺してみろ。
お前も殺してやるからな。』
『‥‥‥っ、わかったよ。』
初めて僕が恐怖を覚えた。
この女‥
僕以上に狂ってるな。
狂気は武器だ。
こいつはきっと‥
僕以上に恐ろしい奴だよ。
『また来るから。
次、来るまでに"あれ"する場所考えといてね。
うふふ‥
あの女‥本当は殺すつもりだったのに。
あんたがあの女に惚れて逆に都合よかったわ。
じゃあね』
女はニヤリと笑いながら玄関の扉を閉めた。
家の場所を教えたのは間違いだったな。
何度も何度も来るし。
残念だな。
お前の思い通りにはさせないよ。
‥―カツ カツ カツ カツ‥
私のヒールの音が夜の道に響く。
あの女、さっさと死ねばいいのに。
そうしたら私が1番になっていたのに‥!
携帯を開き待受画面を見る。
『ねぇ?琉輝星‥。
どうしてあの女なの?
なんで私じゃないの?』
貴方は遠い存在‥。
ずっとずっと‥
貴方を"琉輝星"と呼びたかった。
呼びたいのに。
貴方は遠すぎる。
いつになったら私だけ見てくれるの?
こんなにも貴方を愛してるのに。
―ピンポーン
『雪梛〜
美月だけど。』
インターホンが鳴り玄関から美月の声が聞こえた。
『開いてるよ〜』
私が大きな声で言うと玄関が開き美月と美月の彼氏が入って来た。
『おじゃましまーす。』
『お〜琉輝星。
久々じゃん。』
二人の挨拶を聞いた後に私も挨拶変わりに言う。
『ごめんね。
いきなり呼び出して。』
『いいよーん♪
要らない服って何よ?
スウェットでもよかったの?』
美月は自分の着ているスウェットを引っ張りながらこちらを見る。
『スウェットで上等〜♪
てかそれでよかったよ。』
桜がニコニコしながら美月に答える。
『ならいいけど。
で‥要らない服着てこさして何すんの?
ガーデニングの手伝いなら、うちのママのだけで十分だからね。』
美月はふざけながら聞いた。
『安心して。
ガーデニングではないから。』
桜は笑いながら美月に言った後、説明を始めた。
『美月は別に何もしなくていいの。
ただ、その服をせなに着さして。
その後2時間か3時間ぐらいしたら帰って。
せなにも要らない服用意してもらっといたから。』
『‥なんのために?』
『せなをここから逃がす為に。』
その言葉に全員が黙る。
『二人とも‥頼む。』
琉輝星が頭を下げる。
‥私の為に‥‥‥。
『ちょっ‥琉輝星!
頭上げろよ!』
『そうだよ!琉輝星!
それくらいするからさ!』
二人は頭を下げる琉輝星を宥める。
『雪梛の為だもん♪
私が出来ること何でもするよ。』
『‥ありがとう。』
その言葉に私は本当に心から感謝した。
『ねぇ桜。
正之さんは?』
『正之は先輩の車借りに行ってるよ。
正之の車も琉輝星の車もバレてるかもしれないからね。』
美月は納得したように頷く。
『じゃあ雪梛。
着替えますか。』
美月は立ち上がり脱衣所まで歩いて行く。
『そうだね‥。』
私も返事をして脱衣所に向かう。
『雪梛‥ちょっと痩せた?』
脱衣所で服を脱いだ私を見て美月は聞いてきた。
『え‥どうだろ?
よく分かんないや。』
痩せたとしても1、2kgぐらいなのに。
『私、そんなに痩せた?』
『うん。
ちゃんと食べてる?』
『‥‥‥‥』
正直そんなに食べてない。
だって‥強がっていても本当は怖い。