携帯電話が起床の時間を告げる。

カーテンの隙間から眩しい光りが見える。

『もう朝かぁ‥
用意しなきゃ。』

麻倉 雪梛(あさくら せな)は大学に行く用意を始めた。

眠気を覚ます為、熱めのシャワーを頭から被る。

浴室からタオルを体に巻き付けて出ると携帯のランプが光っていた。

『不在着信だ。
誰だろ?』

一人暮らしなので雪梛に返事をする人は誰も居ない。

2年以上も一人暮らしをしていると何故か独り言が増える。

着信履歴を開くと同じ大学の桜からだった。
雪梛は通話ボタンを押し桜にかけ直した。

『あ、もしもし?桜?
ごめんね。
シャワー浴びてたの。』

『全然いいよー!
待ち合わせいつもの場所ね〜
てかさ!今日ひま?』

いつも通りの会話をしながら雪梛はタオルをはらりと外す。

雪梛の腰には美しい牡丹のタトゥーが堂々とあった。

腰まである長い黒髪をまとめ雪梛はクローゼットの前に立つ。

下着を着けパーカーを羽織り床に座った。

『ドライヤーするからまた後でね。』

そう言い雪梛は電話を切った。

『さて‥髪乾かすか。』

―ピンポーン

そう言った瞬間、インターホンがなった。
『‥髪乾かしてないしこんな格好だし‥
居留守でいいや。』

雪梛はドライヤーの音で居留守がバレると思い髪を乾かすのをいったん辞めた。

冷蔵庫へと向かい中からミネラルウォーターを出し豪快に飲む。

もう行ったかと思い玄関を見つめながらもう一口ミネラルウォーターを口に流し込んだ。

―ピンポーン ピンポーン ピンポーン

『‥なによ
気持ち悪いな‥
もしかして友達がいたずらしに来たとか?』

雪梛は玄関へと向かいドアスコープを覗いた。
ドアスコープを覗くとそこは真っ黒だった。

『?』

指で押さえてるのか?と思いジッと見ているどそれ゙がギョロリと動いた。

『‥っ!』

直感的に声を出したらいけないと思った。

カタカタと足元から震えてくる。

‥違う‥‥あれは指じゃない‥
‥‥"目"だ‥‥
じゃあ‥誰かが覗いてる‥?

雪梛は中に居る事はバレないと知っていたが怖かった。

どう‥しよう‥‥

焦りながら雪梛は思い付いたかの様に携帯を開き震える手で番号を打ち込んだ。



1‥‥1‥9‥



違う!

110!

プルルルルルと電子音が1回半鳴ったあと低い男性の声がした。
『はい、こちら110番
事件ですか?事故ですか?』

男は慣れた口調で言った。

雪梛は震えた声で涙を堪えて小さな声で叫んだ。

『へ‥変な男が‥!
ド‥アスコー‥プから覗いて‥‥
助けて‥!!』

雪梛は必死で説明をした。

住所、電話番号や色々な事を聞かれた後

警察官と思われる男は『すぐそちらに向かわせます』と言い電話を切った。

―ピンポーン ピンポーン

『‥‥‥』

『?』

雪梛はドアスコープの男がドアの前で何かを喋っていることに気付いた。

『‥‥‥‥』

『な‥んな‥の?』

耳を無意識に澄ましてしまう。
『せぇなぁちゃあぁあん』

『‥ひっ!』

雪梛は言っている事が分かると今まで出したことのない声を出した。

早く‥っ!早く来てよぉ!!

『てめぇ!こら、ジジイ!
何してんだよ!』

雪梛が恐怖で目をギュッとつぶった瞬間‥

聞き覚えのある声が廊下からした。

『るき‥あ?』

雪梛はつぶった目を開け顔をあげた。

ドタドタと誰かが走って行く音がしたあとドアをガンガン叩く音がする。

『るきあぁ!』

ボロボロ泣きながら雪梛は勢い良くドアを開け琉輝星に抱き着いた。

琉輝星は雪梛を抱きしめながら頭を撫でた。