「ふむ……」

 その頃──ベリルはオニキスに入っていたメモを、窓から差し込む街頭の薄暗い灯りで眺めていた。

 ベッドで静かな寝息を立てている少年を一瞥し眉をひそめる。

「読む限りマールブルグウイルスに似ているようだが、いじってあるのか?」

 マールブルグはレベル4のウイルスだ。確か、あのウイルスにワクチンは存在しない。

「あえてエボラや天然痘ウイルスを使わなかった事には少々、感心した」

 それをばらまく行為は許し難いがね……かなりの医学知識が必要だと思われるメモをすんなりと読み取り、小さく唸る。

 ティーロは冬眠状態だと言っていたがなるほど、彼にはそういう理解だったか。

 芽胞菌(がほうきん)に改良されている。

 これなら体内に数日、眠らせておく事が出来るだろう。

 芽胞(がほう)とは、一部の細菌が形づくる極めて耐久性の高い細胞構造の事だ。