「寝言、言ってた」
なんだ、寝言か。
そう思って胸を撫で下ろしたが、どうもリリーの顔は曇りがち。
まさか…
寝言以外にも…?
確認するように訊いてみる。
「寝言?」
「…あき、って」
訊かなきゃ良かった。
一瞬止んだ風が砂を蹴って、飛ばされた粒が左の頬に触れてヒリリと病んだ。
そして俺は、思い出したくもない事を一気に思い出す。
「それ、昨日…彼女にも言った」
起こった出来事を整理するみたいに、言葉にしていた。
「え…?」
「そんで殴られた」
リリーは不思議そうに目を丸くして俺を見ていた。
だけど、その顔は直ぐに淋しげな表情に変わる。それは自分に対しての同情なのか、または彼女に対しての同情なのか分からない。
でも、心配してる事だけは確かだった。
「謝ったほうがいいよ…」
リリーの心配はもっともだし、自分でも早くそれをしなきゃとも思ってる。
思ってるんだけど…
「いや…謝んねぇ」
反対の言葉が出て来た。
「どうして?」
「いや、謝るかもしんねぇけど…仲直りはしねぇと思う」
だけど、これが俺の本音。
リリーはあからさまに驚いた顔をして、心配そうな表情を作った。
その顔に笑って見せたけど、それは自分でも分かるくらい不格好な笑顔だった。