「……の」


「え?」



笑いすぎて砂の上に落としてしまったタバコを探してると、リリーが何か言った。
でも、風が強くて聞き取れない。
もう一度訊こうか迷ってるうちに吸い殻は風に飛ばされ、あっと言う間に消えて行った。


まぁ、いっか。なんて考えながら、流木に座っていたリリーの隣に腰を下ろす。
暫く目の前に広がる海を眺め、二人してぼんやりとしていた。

空はどこまでも青く、ゆっくりと流れる雲は自分とは正反対に清らかに真っ白で、その形を柔らかに変えながら凪いで行く。
目に映る全ての物が眩しくて、俺は目線を落とした。

先に口を開いたのはリリーだった。




「もう…三十路になるんだ」


「マジで?」



少し茶色がかった長い髪を小さな耳に掛けながら、吹き付ける風を擽ったそうにリリーは笑って頷く。

俺が「そっか」と言うと、リリーはまた笑って「もうオバサン」と言った。
だけど、やっぱり自分にはそう見えなくて、何か言おうとしたけど、どれも相応しくない言葉ばかりだった。
考えに考えた結果、思ってもいない事を口にしていた。




「俺、昨日…なんかした?」


なんで今頃、この状況で言い出したのか自分でも不思議だった。
でも、言葉にして解った。


あぁ、そうだ。
腑に落ちなかった原因はこれだ。