エンジンを掛け、ハンドルを握り、宛もないまま車を走らせて行く。

その間、隣でリリーが何度が話し掛けて来たが、それすら無視してしまった。



最悪。

これじゃ、八つ当たりだろ…



掛ける言葉も見付からず、進行を右に変え、古い街道を抜けて海を目指す。
そこは夏になると人が集まり、時期が終われば極端に人が減るような、どこにでもある場所だった。

その場所が1番落ち着けると思った。




「シロ…?」


エンジンを切ってタバコを吸うと、微かに震える声が聞こえた。
俺は海を眺めながら「なに」とだけ応える。



「何かあったの?」


「別に」



リリーは自分のただならぬ雰囲気と、外に出た事に戸惑ってるみたいで、体を強張らせている。


「何もしねぇって」


そう言いながら車から抜け出し、風を仰いで思い切り背伸びをした後、リリーに向かって目配せをした。
するとリリーはドアを静かに開けて、まるで初めての世界に踏み込むみたいにして出て来る。

思わずその姿に吹き出したら、直ぐに顔が赤くなって、更に笑いが止まらなくなった。




「リリーって、いったい幾つだよ…」


「え?」


「だって、反応がなんかもう…」



とても自分より年上だとは思えない行動に、張り詰めていた糸が切れたような、そんな気がした。