あの時は特に何もなく、佐野先生はただ胸を貸して抱きしめてくれただけだった。
あたしは何も言えなくて。
佐野先生はそれをわかってくれてたのか、特に何も聞いてこなかった。
落ち着くまで、ただ黙って側にいてくれた。
でもね、男の人に抱きしめられるなんて、一大事だったんだよ。
頭の中の佐野先生を必死に追い出しながら、続きを話した。
「70点以上とかいうヤツ――」
無理です、と言おうとした。
それなのに、
「70点以上なんて余裕なんだろ? 楽しみだな」
と、先回りされてしまった。
佐野先生は意地悪な笑みを浮かべていて、
あたしはヒヤ汗がタラリとこめかみを伝うのを感じた。
結局、賭けをナシにすることができないまま、教官室を後にした。