あの日、あなたは話してくれたかもしれないけど、何も覚えてないあたしが別れの理由を知ったのは、風の噂。
安藤先生が塾を辞めて高校教師になったと聞いた。
あの時、先生は大学四回生で、教師を目指していることは知っていた。
それでも、まさか同じ高校になるわけないと、あたしは気にしてなかった。
でも、安藤先生は違った。
あたしとの恋よりも、教師としての立場を選んだのだ。
カチャとカップの音がして、現実に引き戻された。
「…佐野先生?」
答えのない先生に続ける。
「…何も言わないの?」
もうぬるくなったコーヒーに口をつける。
「言ってほしいわけ?」
「そういうわけじゃないけど…」
この重い空気は嫌だ。