一時間目が始まろうかという頃。
体育教官室にはいい香りが漂っていた。
「ほら」
佐野先生はあたしの目の前のテーブルにコーヒーの入ったカップとミルクとシュガーを置いた。
「それ飲んで、落ち着け」
――佐野先生はズルい。
いつも意地悪なのに、ときどき最高に優しくて憎めない。
ミルク2個とシュガーを1本入れて、両手で包み込むようにしてカップを持ち、コーヒーを一口飲んだ。
コーヒーのほろ苦さとシュガーの甘さが、まるで佐野先生のようだ。
「…先生、いいんですか?生徒が授業サボるの黙認して」
「いいわけはないが…、そんな風に泣いてるのに追い返すわけにもいかないだろう?
しかも、一時間目は安藤先生の現国じゃなかったか?」
苦笑いしながら話す佐野先生を、あたしはじっと見た。
「…聞かないの?」