ないです、と言おうとしたけど、もうひとつの声によってさえぎられた。
「高村さん…!!」
懐かしい声を聞いて、ビクッと肩を震わした。
佐野先生の胸をつかんで、顔を隠す。
「安藤(あんどう)先生? 産休代理で今日来たばかりなのに、何で高村のことを…?」
佐野先生の不思議そうな声が、あたしの耳に届いた。
その言葉ですべてがわかる。
どうして彼がここにいるのか。
噂の産休代理の先生が彼――安藤瞬(しゅん)なんだ。
「オレ、あ、いや私は、昨年まで塾の講師のバイトしてまして、高村さんはその時の教え子なんです」
先生のジャージをつかむ手に力をこめる。
振り返る勇気は…まだない。
「オレで構いませんよ、安藤先生。それにしてもすごい偶然ですね」
佐野先生と彼だけで進んでいく会話。