「…どうして」
誰にも聞こえないほど、小さな声でつぶやく。
なぜ、あたしは見てしまうんだろう。
鉛のような足を引きずるようにして歩いたその先には、佐野先生と樋渡さんがいた。
佐野先生がいるか、職員室をのぞいてから体育教官室に向かおうとした矢先のことだった。
それまで足が進まなかったのが嘘のように、見つけた瞬間、すばやく柱の陰に体を隠した。
胸がドキドキする。
会話は聞こえないけど、柱からそっと頭を出してのぞくと、
佐野先生が樋渡さんに何か渡しているようだった。
何を渡しているの?
今日はホワイトデー。
だから、きっとチョコのお返し。
それにはどんな想いがこめられているの?