「もしかして、今、忙しいですか?」


「ん、大丈夫だけど、どうした?」


あたしの声に反応して、ようやく安藤先生が顔を上げた。



「百人一首が覚えられないんです。覚えるの手伝ってもらえないですか?」


「手伝うって、百人一首なんてひたすら覚えるしかないよ」



「そうなんですけど、ひとりだと集中できなくて続かないんです」


「仕方ないなぁ。じゃあ、オレが上の句を読むから、高村は下の句な。

天つ風 雲のかよひ路 ふきとぢよ」


「ええ!?」


いきなり始まってしまい、あわてた。



天つ風 雲のかよひ路 ふきとぢよ?


え~と…。



…………。


ダ、ダメだ、出てこない。



「先生、ギブです」