無理やり連れ出されただけだって。
樋渡さんを好きなわけでも関係があるわけでもないって。
「…………っ」
佐野先生の息をのむ声が聞こえて、こんなささいな願い事さえ叶わないんだと悟った。
神様、あたしが鷹井くんに願い事を言い当てられたから?
だから、あたしに意地悪するんですか?
叶うなら、幸せな時まで戻して下さい。
今度はもっとうまく願うから。
人にバレないように願うから。
お願い…。
心から流れ落ちる涙を隠して、佐野先生から体を離して、笑顔を向けた。
「そんな顔しなくても、わかってますよ。樋渡さんに無理やり連れ出されたんでしょ?」
先生がホッとした顔を浮かべた。
佐野先生がだますなら、だまされてあげる。
もうあたしは、先生のはりめぐらせた糸に捕われてしまったのだから…。
佐野先生とふたりきりで歩く帰り道、あたしの心は悲鳴を上げ続けていた。