無我夢中で振り回した腕に当たって、その人が発した声。
それに、聞き覚えがあって、あたしはピタッと動きを止めた。
こわごわと顔を上向けると、鷹井くんの目とあった。
それを確認した鷹井くんが、ようやく口を押さえる手を離した。
「な…んで…?」
鷹井くんとわかって安心したとはいえ、まだ恐怖が抜けきっていない。
震える唇でたずねた。
「夜中にひとりでどっか行ったら心配するだろ。追いかけてきたんだよ」
「…さ」
佐野先生はどうしたの?
問いかけそうになって、あたしは急いで言葉をのんだ。
あたしを心配してくれた鷹井くんに、それは言ってはいけない。
それくらいはわかる。
でも、遅かった。
鷹井くんは、あたしが何を言おうとしたかわかったようだ。
「佐野先生なら、樋渡さんがべったりくっついたままだよ」