だから、きっと会ったのを忘れるくらい昔のことだったら、

あたしは恋愛対象になんてならないはず。



それなら、いつ佐野先生に会ったんだろうか。



「はぁ~~」と大きなため息が聞こえたかと思うと、

あたしを抱きしめる佐野先生の腕の力が強まり、あたしはびっくりした。



「わかってたことだけど、ムカつく。

俺は忘れたことなかったのに、おまえはきれいさっぱり忘れてるんだから」



「ご…ごめんなさい! あ、あの、あたしいつ佐野先生に会ったの?」


あたしは落ち着きなく、佐野先生の腕の中でモゾモゾしながらたずねた。



「それは…」

「それは…?」



佐野先生を見上げ、その眼差しに負けないように待ち構えた。


ゴクッと自分の喉を鳴らす音がやけに大きく感じる。




「それは…ヒ・ミ・ツ! ムカつくから教えてやらない」