樋渡さんに負けたから、佐野先生に甘えるわけにはいかない。


触れるわけにはいかない。



「…送ってもらったらいいじゃない」



その言葉に、今度はあたしが瞳を見開く番だった。


樋渡さんから目が離せない。



「送ってもらいなさいよ」



いつの間に泣き止んだのか。


樋渡さんはもう一度しっかりした声で言った。


「…でも」



「賭けはチャラよ、チャラ。あたしのせいで高村さんは満足に走れなかったんだから」


納得いかないあたしに、樋渡さんはたたみかけるように言った。



「樋渡さん、ありがとう」


うれしくて、自然と笑顔がこぼれた。



「でも、私負けないからね。

佐野先生が高村さんを好きでも、私も佐野先生が好きなんだから、ふたりの邪魔してやるんだから」



茶目っ気たっぷりな顔で言われ、あたし達は笑い合った。


樋渡さんにとってあたしは恋のライバルなんだけど、それと同時に友達になれた気がする。



笑いながら保健室を後にすると、

まるでタイミングを計ったかのようにグラウンドに全員集合のアナウンスが流れた。