フリだとはわかっていても、佐野先生に見られてると思うと、やっぱり緊張してくる。
「あぁ、シンデレラ。貴方こそ間違いなく私の姫君だ」
『そうして王子とシンデレラは愛を確かめるように』
いよいよだ、と固く瞳を閉じたその時、「ごめん」というつぶやきが耳に届いた。
どういうことか、と思う間もなく唇がおおわれた。
それは熱く、柔らかく、見なくても唇だとわかる。
驚きで目を見開く。
劇ではすぐ離れる予定だったのに、なかなか離れない。
「…ンん……」
舞台の上だから、無理やり引き離すこともできない。
ナレーター役も一向に離れないキスに驚いたのか、
『熱~~いキスを交わし合いました』とアドリブで『熱~~い』を付け加えたくらいだ。
目を見開いたまま、視線を横にずらし、あたしはドキンとした。
客席から佐野先生が見ている。