そして、安藤先生の切なそうな声が耳に届いた。
「ごめん。その浴衣姿見たら、つい追いかけてしまった。懐かしくて…」
何も言えなかった。
この浴衣は安藤先生との思い出の品なんだ。
だから、これを着て、安藤先生に会ったのはすごく辛い。
「だけど俺は来るべきじゃなかったよな。
佐野先生、高村をよろしくお願いします。見回りは俺がやっておきますので」
今度は音を立てて遠ざかって行くのがわかった。
あたしは何もできなくて、ただ、お腹にまわされた腕をギュッと強くつかんでいた。
佐野先生に手を引かれながら歩き、人込みを抜け出した。
着いたのは砂浜に降りる階段。
といっても、花火見物のメインスポットからは外れた、屋台も何もない場所だ。
だから人も少ない。