エレベーターを降りると、少し広めのエレベーターホールがあり

ビルの割に事務所と呼べる雰囲気ではなかった。



まるでマンションのような部屋の扉が1つ有るだけなのだ。



上部のプラスチック板の表札を見ると

「野村明子」

女性の名前が、達筆で彫られている。



少年は相変わらず無言のまま、カバンから出したカギでドアをの鍵を開き
扉を開いた。



その時、室内から溢れるように匂ってきたのは、少年から香るお香と、全く同じ香りだった。



一切の明かりがついていない真っ暗な室内からは、大きめのテレビの音だけが響き渡っている。



不安の面持ちで黙り込む私の傍ら、少年が玄関へと入って行く。



逃げないと…




最大の危機感を感じたが、今更だった。



私は強引に腕を引かれて
部屋に引き込まれてしまったのだ。



ガチャガチャッ。

2重の鍵が掛けられると、パッ。と、玄関の電気が点いた。



室内は最近リフォームしたばかりのように新しく

老人向けの手すりの付いた、綺麗なフローリングの廊下が広がっている。


やっぱりここは彼の実家なのか、私が疑問を抱いた時