「サユミさんに『弱っちいのを治して』と媚を売りに来たのか」


 空耳かと思った。だが、せせら笑いを浮かべてカインを小馬鹿にしたように見ている来栖の顔が、現実に出た言葉なのだと葛城に突き付ける。


 しかし、葛城を驚かせたのはそれだけではなかった。


「クルスこそ、『出来損ないを治して欲しい』と泣きついてたのでしょう」


 信じられなかった。

 確かに今までにも彼らの言い争いを耳にしたことはあったが、それはあくまでも仕事上の議論だったり、プライベートのトラブルだったりで、こんな言葉を使ったりはしなかった。


 凄まじい顔をした来栖と、飄々と辛辣な言葉を放ったカインに、身震いが止まらない。


 まるで、お互いがお互いを蔑んでいるかのような──

 ゾクリ、と背筋を恐怖がはい上る。
一気に駆け抜けたその周りを、じわじわと侵食するかのように忍び寄った影に、葛城は頭を振った。

──まさか。そんな。