なんていう、ハートマーク満載のCMが流れてて。
それはわたしにとっては戒告(かいこく)のようなもので。
たぶん、草太は「しまった!」と思ったんでしょうね。
「あ~、なんだ、たまには、どっかに食べにいくか」
ついさっき食べ終わったばかりなのにその会話は不自然すぎだよ、なんてことはあえてつっこまないわたし。
というかつっこむだけの勇気がない。
だって、わざと会話をそらすってことは要するに、
「まかり間違っても手作りしようとか考えるなよ?」
っていいたいってことでしょう?
これでも直接いわれるとけっこう傷ついちゃうのだ。
だから、
「草太の料理よりおいしいところがあれば、ね」
なんてちょっとおだててこちらからも話題をそらす。
「そいつは難しいかもなぁ」
「調子にのりすぎ」
「そいつはどうも」
「ね。食後の珈琲、飲みたいな」
「了解致しました、お姫様」
「よしなに」
なんて、いつもの会話をしながら、
「…………」
わたしはこのとき思ったのだ。
(やってやろうじゃないの)
って。
だって、ねぇ?
くやしいじゃない?
わたしだって純情可憐な乙女だもの。
その、つまり、好きな人に特別なイベントのときくらい、本当は何か作ってあげたい。
「よし!」
「んぁ? なんかいったか?」
「ん~ん。なぁんにも」
「ふぅん?」
いぶかしげな顔をしてテーブルの上に淹れたての珈琲を置く草太。
お気に入りの、クローバーが描かれたカップからはいつも通りの芳しい香りが立ち上る。
(ん。マスターにお願いして教えてもらおっと)
こうして次の日に、明らかに「本気か?」という顔をしたマスターに土下座して頼み込んだのだった。