お菓子なんてレシピ通りに作ればどうってことないと思うのね。

「っと、まずはチョコを湯煎するね……」

 わかってる。

 前に「チョコを溶かすときは間違っても鍋に直接ぶちこむんじゃぁないぞ?」っていわれたもの。

「あれ? でも湯煎ってなに? お湯で煎じるってことだからつまり……」

 あれだ。

 お茶を煎じるとかよくいうから、お湯で煮ればいいのね。

「よし!」

「まてまてまて!! そうじゃない、まゆみくん!」

「ふぇ?」

 沸騰したお鍋にチョコを入れようとしたわたしを大きな手が「待てい!」と遮る。

 それは今わたしの臨時の先生を買って出てくれている、この喫茶店『ピアニッシモ』のマスターのものだった。

「え? 違うんですか?」

「たまにここでも作ってるだろう。そうじゃなくてだな」

 いいつつマスターは金のボウルを2つ出して内1つにお湯を張り、そこにもう1つを浮かべてチョコを入れた。

「こうやって、間接的にお湯の熱で溶かすんだ」

 なるほど。

 そうなんだ。

「ほら、次」

「あ、はい!」

 うながされ、慌てて次の手順に目を通すわたし。

 そのときちらっ、と壁にかかったカレンダーに目を向ける。

 今日は2月13日。

 決戦の日はいよいよ明日に迫っていた。