沙鵺。

俺もなんだ。

人に俺の名前を
軽々しく
呼ばれたくない。

理屈じゃない。

嫌なんだ。

この名前を
凄く好きなわけじゃない。

けど、
俺のものには
まちがいないんだ。

だから、
俺の名前を
気軽に呼んだり、
聞いて欲しくない。

…とは言っても
こんな世の中だ。

名前を言うのを
拒んでばかりも
いられない。

人に名前を
聞かれたりする事に
抵抗を覚えつつも

その苦痛に
少しずつ慣れていった。

けれど、
その苦痛が
無くなったわけじゃ
無かった。


だけど、
お前に名前を
聞かれた時、

あんなに
馴れ馴れしく
聞かれたのに、

あんなに
唐突だったのに、

何故か
自然に名前を
答えられていた。

苦痛も無かった。

今考えると、
その事がすでに
不思議だな。


沙鵺。


お前の名前。

初めて聞いたとき、
凄く綺麗な響きの
名前だと思った。

お前は
もしかしたら
あの時、

名前を口にするのが
苦痛だったのかもな。

でも、許してくれ。


それだけ
お前を
知りたかったんだ。



それだけ
お前に

惹かれたんだ…。