「なぁ、兄貴…。」

「なんだよ。沙鵺としゃべってたんじゃなかったのかよ。」

「“沙鵺”か…。付き合ってんの?」

「違うけど。」

「本当に?」

「本当に。」

「好きじゃないの?」

「好きだけど、お前が思ってるようなのじゃない。」

「そうなの?」

「ああ。」

「沙鵺ちゃんもそう言ってた。」


沙鵺に聞いたのかよ。

じゃあ何で俺に
また聞くんだ!


「あっそ。」

「沙鵺ちゃん…沙鵺、彼氏いないんだって。」


『沙鵺』…だと?
…ムカつく。


「あっそ。ってかお前。沙鵺の事、呼び捨てすんなよ。」

「…何で。」


何でって…。
嫌なもんは嫌なんだ。


「なんとなく。独占欲ってやつかな。最近芽生えちゃって。」


少し冗談っぽく
返す。


「何それ。意味分かんねーよ!」

「それよりお前、最近サーフィンサボってる?
お前にしちゃ上達、遅くない?」

「はぐらかすなよ!!それに俺のサーフィンにケチつけんな!」

「え…?」

「沙鵺の事、好きじゃないならなんで独占したりすんだよ!」


しまった…。
こいつは昔から
カッとすると
何言っても無駄だ。


それにしても…
久々に
カッとしてるとこ
見たかもな…。


「どうした。落ち着け。」

「なぁ。答えろよ。」

「…言ってもわかんねぇよ。」

「何だよそれ!年下だからってバカにしてるのか?!」

「そうゆうわけじゃ…」


「二人とも!!時間だよ!!」


「沙鵺…」
「沙鵺。」


沙鵺の声が
間に割って入る。


やっと辰巳が
落ち着きを
取り戻す。


なんてこった!!
全然サーフィン
出来なかったじゃないか!!


畜生!


「ちぇ。」


そう舌打ちして
陸地に向かう弟に


「何度も言うが、呼び捨てすんな。」


そう吐き捨て、

俺もボードに乗り



俺の
最高の居場所である、

海から
ゆっくりと
這い出て行った。