「はー!今日は波が無いなー。スピードが全然でないや!」


遠くで
弥月の弟が
叫んでいる。


「沙鵺ちゃんもやりなよ!」


名前を呼ばれて
少し慌てる。


「う、うん!」


波が静か…。


そっと
ボードの上に
乗る。


ふと、

優しい
波の感触を
足首に感じる。

振り返る。


そこには

弥月がいた。


弥月…。


「あいつ、あんまり上達してないな。」


ぼそりと
呟いた。


「え…?」

「ああ。何でもない。ほら行け!」


思い切り水を
かけられる。


「きゃ!ちょっと!弥月!!」


文句を言いながら
波に乗る。

波はほとんど無い。


けど、


風が私を
押してくれる。


私の軽いボードは
かなりのスピードで
波の上を
滑走していく。


気持ちいいな。


後ろに
弥月の視線を
感じる。


ほら。

弥月もおいでよ。


ちらりと
後ろを見て

目だけで
誘ってみた。



それに
気づいたのか、

目の端に
にやりと笑った
弥月の姿が
見えた気がした。