おっと。

笑いすぎたか。


沙鵺の声に
少し焦りが
感じられた。


「悪い。ボードは海にほっといて、お前だけ泳いで来いよ!!」

「いいの?このままで?」

「ああ。浮かべとけ。」

「わかったー。」


大声で会話する。


やばい。

さっきの沙鵺の
恰好が
頭から離れない。

笑いをごまかすために
思いきり
水中に
潜ってみた。


魚は荒波で
一匹も姿が
見えない。



その時、
なんだか妙な
不安に駆られる。




…あ…!




急いで海上に
顔を出す。


ボードが
少し遠くに
流されていた。


危ない。


いつもの癖で
ボードを手放して
泳いでしまった。



やっと近くに
沙鵺がやってくる。


「悪い。」

「何が?」

「今、ボードをなくしそうになった。」

「え?あぁ。手放したってこと?
別に大丈夫だよ。いつか戻ってくるよ。それより乗れた?」



戻ってくる…


今、
確かにそう言った。


根拠のない
自信か?

それとも…


「ちょっと!無視は禁止事項!!」

「…え?ああ。まだ。」

「早く乗ってみて!」


嬉しそうに
自分のボードを
俺へと突き付ける。


「わかったよ。」


言われるがままに
挑戦することにした。



さっき感じた
少しの違和感は、

横を通り抜けた波が
砕け散る頃には

もう弥月の頭からは
消えうせていた。