「だろ!ここから3000フィート離れたアルタス山脈の蒸留水だぜ。分かったなら、買ってよ、一本20ギルにまけるからさ。」
目を輝かして、一気に詰め寄る少年。
強面で下手をすれば、片手だけで人を殺せそうな腕を持っているというのに、怖さ知らずといわんばかりだ。
ちなみに、20ギルとは、平均的な馬のえさ一日分の値段と一緒。
物が『ただの水』というコトを考えれば、分からない値段ではない。
「アルタス山脈、お前そんなところから来たのか?」
しかし、店の主人はまったく別のことに興味を示したらしい。
というより、もしかしたら話をごまかして何とか、先ほどの『うまい』発言をうやむやにしたいのかもしれない。
「もう・・・俺がどこから来たかなんて関係ないだろ!俺は水を買って欲しいの!水、水、水!!」
しかし、少年にはそんな方法は通用しない。
彼の頭の中にあるのは『水』のただ一点だけだ。
「分かったよ・・・買うよ。とりあえず、客の分と合わせて、30本おくれ。」
結局、根負けしたのは店の主人のほうだった。
「へへっ・・・まいどあり~・・・おっちゃんありがとね。」
言うと、少年は大きなショルダーバックの中から、水筒を30本取り出し、600ギルを受け取ると店を後にしていった。
「あいつ・・・もしかして・・・・。」
少年が去っていった後に主人が口にした言葉。
「あぁ・・・一度、巫女さまと合わせたほうがいいかも知れぬの・・・。」
答えたのは、先ほど少年の不思議な筒を見て、一発で『魔法』と見抜いた老人客。
しかし、そんな言葉を発するときには、既に少年はコノ店から遠ざかっていた。