「違うよ、ものが違うんだよ、ただの水を商売道具にするかよ?いいから、一口飲んでみてよ。」
口にしながら、少年は重たそうに抱えているショルダーバッグから水筒を一本取り出す。
今のご時勢となっては古い形となった竹の筒を利用した水筒。
保温性も低く、こんな暑い日では、あっという間にぬるくなってしまうだろうに、その水筒からは冷気が漂っていた。
「これは・・・?」
店の主人の表情が変わる。
水の登場に驚いたのではない。
この暑い中冷気を放つ竹筒が、真夏のクソ暑い酒場という光景の中では、あまりに異質だったのだ。
先ほどまで静観を続けていただけの客たちも、この竹筒の登場に一様に珍しそうな顔を向ける。
「ほぉ・・・また、古い魔法を使う坊主じゃの・・・。」
客の一人である、老人がそれを見ながら、ぼそりとつぶやいた。
「魔法なんかどうだっていいよ。とりあえず水を飲んで欲しいんだよ、俺は!」
しかし、少年はそんな魔法なんてどうでもいいらしく、店の主人どころか、客にまで水を勧め始める。
こんな光景を目のあたりにしては、少年が差し出す水を飲まないわけには行かない。
店の主人は、恐る恐る少年が差し出した水を一口なめる。
「・・・・・・うまい。」
それは、おそらく主人が考えていた言葉とはまったく逆の言葉だったのだろう。
それを口にした主人の顔が苦虫をつぶしたように変わる。
おそらくは、『まずい』と言って押し返したかった計算が狂った。
言わなくても、表情が語っていた。
しかし、それに対して少年の表情は一気に変わる。