「なぁ、おじちゃん水買ってくれよ。水。」
そこは小さな村だった。
線路も電車もここまでは届いておらず、まだ農業によって成り立っている小さな町。
産業化に乗り遅れたことを『緑豊かな村』といい逃れることで、何とかプライドを保っている・・・そんな村だった。
「水だ?そんなもの?近所の川にいけばいくらでもあるだろう?何で買うんだよ?」
その中にある小さな酒場。
少年が、その町に来たのは真夏の太陽がさんさんと照りつけるとても暑い日だった。
カウンター越しに立っているのは店の主人。
髭が濃くてとてもがっしりした体格をしている。
右目は刀傷でつぶれており、半そでから見える腕にはいくつかの銃痕が見て取れた。
おそらく、元軍人、足か腕かをやられて前線で戦えなくなり、里に戻って酒屋の主人に落ちぶれた。
そんなところだろう。
それにしても、こんな真昼間だというのに、客で溢れかえる店内。
こんな時間から酒屋が繁盛しているというコトは、それだけコノ村が荒廃していることの現れであるのだが、少年にしてみたら知ったことではない。