「まったく・・・これだから、田舎の民というのは・・・それにしてもすごい花だな。この暑さでは数時間で枯れ果ててしまうというのに、可愛そうなことをするものだ。」


 騎士は踏み荒らした花を眺めながら、呆れたような声をあげる。


 いや、実際に呆れていたのだろう。


 なんて無駄なことを・・・。


 花を咲かす力を人を殺す力に変えることもできるというのに・・・。


 その表情が言っていた。


「それでも、ここの野原の花はまた春になれば、息吹を返す。永遠に花の咲かない野原を増やし続けるアナタたちより、よっぽどましよ。」


 先に口を開いたのはミクだった。


 挑発的な物言い。


 危険だが、とめるつもりはない。


 自分も、まったくの同意見だったからだ。


「花で腹は膨れんよ。返事ができるなら、質問に答えろ。お前がうたびとだろう?」


「花の美しさを知らない人間は幸福を得られないぞ、火の民。」


 返事を返したのはミクではなく、スイだった。


 いけ好かない。


 とことんいけ好かない。


 ミクが挑発した。


 だけど、喧嘩を買うのは男の仕事だ。


「なんだと・・・貴様、今なんと言った?」


 男の表情が変わる。


 当たり前だ、お前たち帝国を名乗る民にとって、この名前は禁句に近いだろう。


 だけど、俺から言わせればその名を捨てたお前たちに、誇りはないんだよ。