委員長が泣いた日(短編)



彼は完璧主義者の我が学年が誇る秀才で

彼は誰にだって分け隔てなく接する事ができる

彼は学年の誰もが気軽に話せるリーダーで

彼は我がクラスの委員長

彼を頼らず誰を頼れと申されるか。







荒々しい足音と共に、放課後の教室に荒々しく机が倒れていった。

正しくは足で倒された。

いつものやんちゃな雰囲気はこの机を倒した男には無く、まるで別人のようなその男の視線が教室の隅で話している女子を睨む。



短めのスカートの女子はその視線に対抗して荒々しく一歩前に乗り出した。


「お前邪魔。もういい帰れ」



その二人の間に入っていった彼は、

我がクラスの委員長、桧山良太郎


その声は、机を足で無下に倒した男に向けられて、酷く冷たい声。



「………」


男も頗る機嫌が悪いのか委員長と女子をギロリと睨み付けるとロッカーの上に置いてあった鞄を持って、周りにいた連れと荒々しく教室を出ていった。

それは一瞬の出来事で、やっと状況の判断が出来た女子達は負け犬の遠声と見えぬ男に野次をとばす。






その光景を見た後、これ以上何も起こらないと察した私は再び目の前の黒板に視線を移して黒板消しで黒板を拭いていく。



教室の隅で起こったそれにより、掃除をしていた男子達は皆いなくなってしまったらしく、

再び話を始めた女子達の笑い声がやけに放課後の教室に響いた。



いったい原因は何かなんてただ日直の仕事をしてるだけの私にはわからない。


ただ、掃除をする男子がいなくなったことでこの教室を掃除するのは淡々と机を運ぶ当番の女子と、委員長と心優しい男の子だけとなっている。



十分だと思うが、男子が意味のわからない苛つきを見せて帰ってしまったことで、掃除当番の掃除をする手はだるくなっているようだ。



気持ちはわかる。
私も日直の相方が先に帰ってしまって、仕事全て任されてしまっているから。






はぁ。と溜め息を落とすと、大きな物体が教卓の下、つまりは私の隣に座り込んだのが目の端にうつる。


ゾッとして目を向けるとそれは、教卓の下で顔を隠して座り込む、我がクラスの委員長だった。


その肩は、まるでか弱い子供の如く揺れている。



私の勘が鈍くなければ、彼は泣いている。



教卓の下ということから私以外にはバレていないようだ。

私は手さえ動かせず彼に釘付けに。


こんな時はどうすればいい!?
と、無い頭が活発に活動し始める。

それは、委員長という彼が、初めて弱い部分を見せたせいで、私は大分戸惑っているからだろう。


笑顔も知ってるし、怒った顔も知ってる、問題を教えてくれる真面目な顔、男の子らしくヤンチャする顔だって知ってる。


だけど、こんな委員長は初めて見る。






それって何だかとても面白い。

「っっっ」



込み上げてくる笑気を必死で噛み殺しながらお腹を捩った。

顔は次第ににやけだす。



だって、“あの”委員長が泣いてるって!!!!



「あっはっはっはっはっはっはっは!!!!」



堪えきれなかった沸き上がるような爆笑が隅で話していた女子達の声にも勝ち教室に響いて、委員長は私を見ることもせずに皆に背を向けて立ち上がると少し屈んで掃除を再開しだした。


私はというと笑いが止まることは無く、バンバンと委員長の背中を叩く。


委員長は全部無視で淡々と集まった塵を塵取りの中に掃き入れていた。



「桧山泣いてる!?」


気付いた女子の一人が大声で委員長を指差した。


「・・・えええええ!!?」



あり得ないとばかりに教室中の生徒が声をあげる。その間も私はお腹を捩りながら机に項垂れ笑っていた。







しまいには目の端に涙もたまっていく。

皆は委員長の背中を優しく叩いて何かを囁くとまたそれぞれ今度は黙々と掃除を始めた。

静まる教室。
私の笑い声だけが響いていた。



「どうした桧山」


掃除の様子を見に来た先生が委員長の様子に気付いて肩を抱き寄せながら委員長の様子を伺りだす。



さすがに笑いの失せた私はホッと息ついて黒板消しを持って教室を出ていった。

黒板消しクリーナー、そうとしか名前のつけようがないそれはクラスの階の一番隅に置いてあって、そこまで行き着くとスイッチを入れて黒板消しをクリーナーする。



ブオオォンという機械音は周りの音より大きくて、委員長の泣き姿を思い出した私はその音に隠れてもう一度笑った。





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