土方さんに言われた通り、稽古の時に使用している木刀を持って裏庭に向かった。
頬に当たる風が、暖かい。
『…来たな。』
裏庭の中央に佇んでいた土方さんが、俺を見て不気味に微笑む。
『…お願いします。』
俺は体の前に木刀を構えて、土方さんを見据えた。
『ああ…始めるか。』
ゆっくりとした動作で互いの間合いを取る。
暫しの無音--。
道場の稽古で、俺は土方さんに負けた事が無い。
裏庭と言えども、足場が悪いだけで然程支障にはならないだろう。
いつも通り、隙さえ見せなければ勝てる筈だ。
『…タァ!』
先手必勝と、俺は土方さんの胴体目掛けて木刀を振り下ろした。
パンッ…!!
木と木がぶつかり合う音が響く。
『…甘い。』
土方さんが余裕の笑みで俺を睨む。
でも…きっとこれは只の挑発に過ぎない。
二発、三発と俺は攻撃の手を休める事をしなかった。
『…ッ!』
次第に後退する土方さんの様子を窺いながら、最後の一振りで勝負を決めようと大きく一歩を踏み出した。
----其の時。
『…わッ!!』
乾いていた土から一転、ぬかるむ地面に足を取られ体が横へと滑って行った。
『…掛かったな。』
土方さんの顔に、不吉な笑みが増す。
『…くっ!』
慌てて立ち上がろうとすると、今度は顔面に砂利を投げつけられた。