−−青い空に、薄紅色の桜が舞う。
『…あー…もう良く分かんね…』
道場の脇に咲く桜の幹に寄り掛かりながら、そう小さく呟いた。
『…サボってる暇があるなら、働け。』
ふと気が付くと、幹の隣に見慣れた顔が立っていた。
『…土方さん。』
『何、寝惚けた顔してやがる。』
『しっかり起きてはいるんですけどねェー…頭がついていかなくて。』
誤魔化すように笑ってみせるも、土方さんの表情は堅い侭だ。
『…剣術指南役の事、か?』
『…知ってたんですか。』
『…少し、な。』
俺から目を逸らし、小さく溜息を吐く。
『…迷う必要ねェだろ。』
『…土方さんまで、俺を追い出すつもりですか?』
『…お前は、実践向きじゃねェ。』
土方さんの言葉に、俺は目を見開いた。
『…一応、天然理心流免許皆伝なんですケド、俺。』
『剣術の腕があっても、必ずしも実践で役立つとは限らねェ。…試してみるか?』
土方さんの挑発する様な眼差しと口調に、俺はすんなり頷いてしまった。
『…良し。場所は、実践を想定して裏庭で。木刀はお前が愛用しているやつで良いぜ?』
『…もし俺が勝ったら、何か良い事あります?』
『晩飯三日分、お前にくれてやる。』
−−何処迄も強気だな、この人。
口には出さずに、不敵な笑みを浮かべる土方さんを只々見上げた。
『何してる。…早く木刀取って来い。』
『ヘイヘイ。』
寄り掛かっていた身体を起こすと、俺は木刀を取りに道場へと戻った。
…嗚呼、そうだ。
この時。
この時土方さんと戦いさえしなければ…
俺は−−−