ジローの車は相変わらずうるさくて、そして心底つまらない。


無表情を貫いて運転する彼は、どの女を送り届ける時もこうなのだと思うけど。



「ねぇ、何でアンタはこんな街で生きてんの?」


ジローはあたしを一瞥した。


嫌に長い信号待ちで、言葉にした自分自身の方が珍しくて驚いたのだけれど。



「大切な人の傍にいたいからだよ。」


感情の欠片すらないような男が発したとは思えないほど、口調のわりにあたたかい言葉。


まさかそんな返答をされるとは思ってもみなくて、「大切な人?」と思わずあたしは、それを反復させた。



「恋人とか?」


「そんなんじゃないけどね。」


ただ傍にいたいから、と言ったジロー。


瑠衣とあたしのようだと思うと、馬鹿にすることも出来ない。



「それって、他の女の子に色掛けて抱いてまで守りたい人なの?」


彼は何も言わなかった。


ただ、「弱い人だから。」と言うだけ。


大嫌いなジローの、それが初めて見せた横顔だったのかもしれない。



「幸せにしてやりたい、なんて言えるほど、俺はすごくないけど。
でも、苦しみは半分にしてあげたいから。」


みんながみんな、この街で必死に闘っていた。


自分自身に押し潰されないように、弱さを隠して生きていた。


ジローがその人に対して思っていることは、そのままあたしが瑠衣に対して感じていること。



「やっぱあたし、アンタ嫌いだわ。」