真綾だって、この店の色事情は知っているだろう。


それでも泣いている彼女を慰めてあげられるなんて、優しい子なのだと思う。


この街での愛や恋は、利己的なものだ。


あたしは適当な椅子に座り、その辺に転がっていたお菓子を食べ、みんなの輪から外れてひとり、携帯をいじっていた。


瑠衣と同じ機種の色違いで、ストラップも同じもの。


だからあたし達自身も同じだったのかもしれないけれど、でも、全然違っていたね。



「百合ちゃん!」


あたしを呼んだのは、詩音さんだった。



「ねぇ、今晩暇かしら?」


「…どうしたんですか?」


「緒方さんとお食事に行くんだけど、百合ちゃんが頑張ってるって伝えたら、じゃあ一緒に連れて来い、って言われてね。」


嫌な名前に、げんなりとしてしまう。


あんな恐ろしいおっさんと詩音さんに囲まれて食事なんて、御免に決まってる。



「すいません。
ありがたいお話ですけど、今晩は先約があって。」


もちろん、そんなものはないけれど。



「そう、残念ね。」


ちっとも残念そうじゃない顔で言い、彼女はまた、デスクへと戻って行った。


あたしは別に頑張ってないし、女社長や送迎の男が、勝手にばんばん仕事を詰め込んでくれるだけ。


だから稼ぎ頭に仕立て上げられてるだけで、なのによくも言えたものだな、と思う。


まぁ、文句なんて言わないから同じことなのだろうけど。