この日常に、終わりはない。


終わらせようと思えば簡単だったろうけど、でも戻るべき場所はなかった。


だからあたしは、この街で生きる以外になかったのだ。


体を売る以外には。



「おはよう、百合。」


ジローの無表情も、飽きるほどに変わり映えのしないものだ。



「はいはい、おはよう。」


「今日、二件ね。」


はいはい、とまた返した。



「昨日あたし、腕んとこ客に引っ掻かれたんだけど、労災でどうにかしてよ。」


冗談っぽく言ってやると、



「それは俺に言われたって困るけど。」


そしてジローは他の女の子と出ていってしまう。


あれほど互いに嫌悪感を剥き出しにしていたはずなのに、あの日の翌日には、あたし達は今日と同じ会話をしていた。


それは仲直りでも何でもない。


室内の片隅で、女の子がすすり泣いていた。


彼女が辞めたがっていたのは知っていたし、ジローに色を掛けられ、繋がれているのもまた、知っている。


店での恋愛は禁止なのだが、それを仕組んだのはここの女社長。


詩音さんは笑顔で電話対応をしていた。


柔らかい笑みで、どうして無関心を貫けるのか、その神経はすごいと思うけど。


香織の部屋にいても、この事務所にいても、頭がおかしくなりそうなことに変わりはない。