聞くべきなのか、聞くべきでないのか。


そう思いながら、ただぼんやりと水流を打つ浴槽を眺めていた。


利用しているとは、一体どういうことなのか。



「百合。」


弾かれたように顔を向けてみれば、ドアにもたれかかり佇む瑠衣の姿。



「なぁ、風呂なんか良いからこっち来いよ。」


言われて立ち上がり、リビングに向かった。


ふたりでソファーに腰を降ろすと、彼はまるであたしを膝の上に乗せた猫のように扱う。


ジュンとの約束が、ふと脳裏をよぎった。



「ねぇ、アンタ家族いんの?」


「いない。」


「ひとりも?」


「死んだりとか、色々ね。
だからいないわけじゃないけど、いない。」


相変わらず、意味がわからない。


だけどもこれ以上聞く気にはなれず、あたしは瑠衣の体に身を預けた。


心臓の鼓動が耳に触れる。



「寂しい?」


答えはない。


瑠衣はいつも明確には答えてくれない。


この男は、何のためにあたしとのこんな意味もないことを繰り返しているのだろう。


長い夜が嫌いだった。