何だか家に真っ直ぐ帰る気分にもなれなくて、瑠衣の部屋に向かった。


テレビも電気もつけっぱなしで、彼はストーブの前で丸くなって眠っている。


床でも眠れるなんて、死んでるんじゃないかといつも驚くけれど。


瑠衣という男は、猫のようだ。


人を威嚇するような瞳のわりに甘えたで、そして臆病であり、意識を失うように眠るばかり。


漆黒の髪にそっと触れると、びくりと肩を上げた彼は目を開けた。



「あっ、ごめん。」


「何だ、百合か。」


あたしじゃなかったら誰だというのか。


瑠衣は体を起こし、欠伸を噛み殺して手探りで煙草を手繰り寄せた。



「こんなとこで寝てたら風邪引くよ。」


そう言ったのに、今度は抱き締められてしまう始末。


さすがにストーブの前で眠っていたからか、その体はあたたかいものの、震えるような腕だった。



「何よ、怖い夢でも見た?」


冗談交じりに言ったのに、



「アキトに殺される夢だった。」


呟きが、沈黙に溶けた。


今度は笑って流せなくて、すると瑠衣はあたしを物悲しげに見上げる。



「怖ぇんだよ、俺。」


箱から零れ落ちた真新しい煙草が、床に転がっていく。


一瞬そちらに気を取られた刹那、体が反転し、冷たいフローリングを背中に感じた。


瑠衣の心の闇を、あたしは知らない。