8月に入り、あたしの体調も少し落ち着いた頃だった。


ふたりで夜風に吹かれながらコンビニまで歩き、そこで地元の情報誌を眺めていた時のこと。


開いたページには、夏の行楽地特集や、イベントの日程などが書かれている。



「そういや俺ら、夏らしいこと何もしてねぇな。」


あたしが広げていた雑誌を後ろから覗き込んで来た瑠衣は、思い出したように言った。



「どっか行きたいんだろ?」


「……え?」


顔に書いてるよ、と彼は笑う。


いや、確かに今、そんなことを思っていた自分がいるけども。



「花火、好きなんだよね、あたし。」


んー、と考える素振りを見せた瑠衣は、



「じゃあ行くか。」


「…え、でも…」


「まぁさすがに、今のお前連れて人の多いとこは無理だけどさ。
けど、ちょっと遠くからなら、何とかなるだろうし。」


最近のこの人は、驚くほど穏やかで、そして優しい。


だからあたしはまるで子供のように、目を輝かせてしまう。


瑠衣が指し示したのは、8月最後の土曜日に、ここから少し行った河川敷である花火大会。



「じゃあ、約束してくれる?」


「あぁ、良いよ。」


そんな小さなことだけで嬉しくなれた。


それから煙草や飲み物などを買い、ふたり、手を繋いで帰路についた。


静かな夜だった。