幸せすぎて、何だか怖くなった。


けれど瑠衣は、あたしを後ろから抱き締めたまま、ずっとお腹に手を当ててくれていた。


いつも死んだ人みたいに冷たかった彼の体が、今日ばかりはあたたかい。



「ねぇ、結婚するってことは、あたしと瑠衣って同じ名字になるんだよね?」


「そりゃそうだろ。」


「てかあたし、なんて名前になんの?」


「は?」


「瑠衣の名字、あたし知らない。」


「嘘だろ?」


「ホントだよ。」


言った後で、ふたり、可笑しすぎると笑った。


あたし達は互いにまだ、知らないことだらけなのだから。



「つーか俺、お前の親に挨拶行かなきゃなんないの?」


「…あ、そうだね。」


「スーツ、ホストの頃のしかねぇけど。」


「それってさすがにダメでしょ。」


「やっぱ?」


「てゆーかうちの実家、結構な名士なんだよ。」


「おいおい、マジかよ。」


「瑠衣が頭下げるなんて、想像出来ないね。」


「娘さんくださーい、とかってヤツ、練習しなきゃ。
つか、殴られる覚悟しとかなきゃダメかな?」


失った命があった。


そして宿った命が今、ここにある。