少しの希望を残して病院に行ったのに、それは結果として、妊娠の事実を確定づけてしまっただけだった。


あたしのお腹には、新しい命が宿っているということ。


最後まで何も言えなかったあたしが医師から受け取ったのは、母子手帳を貰う為の申請用紙と、そして中絶の同意書。


次回までに、そのどちらかを記入して、提出なくてはならい。


くしくもそこは、真綾が入院している病院だった。


だけどとてもこんな状態では会えなくて、あたしはふらふらと街を彷徨い歩いた。


どこを見ても、何かしらを思い出す。





あのクラブで、瑠衣にナンパされたんだ。


そこのミスドは、よく香織に呼び出されてた場所。


オーシャンのパネルには、格好つけた顔のジュンの写真が一番大きく飾られている。


詩音さんに声を掛けられたコンビニ。


お兄ちゃんと再会した喫茶店。


流星の行きつけだったバーもある。


いつもジローが送り届けてくれてたラブホ街。


そういえば、あたしは緒方さんの期待を裏切ったんだっけ。





歩き続けながら、見覚えのある煙草の自動販売機の前まで来たとき、堪らず涙が溢れてしまう。


そこは、アキトに出会った場所だった。







ねぇ、アキト。

何で死んだのよ――