瑠衣はふらふらとおぼつかない足取りで、再び遺体安置室に入った。


表現出来ないような匂いと線香の煙が混じり合っている。


あの独特の甘い香りは、もうどこを探したってないんだね。



「なぁ、お前こんなの冗談だよな?」


瑠衣はアキトの遺体に縋るように声を絞る。



「今度は何のつもりだよ、幽霊になって俺のこと呪い殺そうって魂胆?
馬鹿じゃねぇの、そんなんで俺がビビるとでも思ってんのかよ。」


「…瑠衣、もう良いからっ…」


「今更逃げるつもりかよ!
恰好つけてんじゃねぇぞ、ふざけんな!」


制止しようとしてみても、瑠衣はそうやってアキトに罵声を浴びせ続けた。


声は決して届かない。


だから彼が吐き出す分だけ、あたしの悲しみは増すのだ。



「なぁ、起きろよ!
ぶん殴ってやっから起きろっつってんだろ!」


「瑠衣!」


瑠衣がどんなに揺すり起こそうとしても、冷たく硬直したアキトの体はぴくりとも動かない。


散々悔しさをあらわにした彼は、急に体を弛緩させた。



「…許してくれよ、あき…」


その場にうずくまった彼は、唇を噛み締める。



「…謝るから、戻って来てくれよっ…」


頼むから、お願いだから。


聞けば聞くほど、瑠衣の悲痛さが胸を刺す。


慰めの言葉ひとつも見当たらず、ただ、あたしもその後ろで流れ続ける涙を堪えた。